ご武運を

土曜夜7時半ごろからやっている、若者多数参加の時代劇を、消去法的になんとなく見ていたら、うちの長男、カッパしゃんがすごい目つきでテレビを見ていた。どうやら髪を後ろでくくっている、若侍姿の栗山千明たん(左近)が、その視線の先にあると思われたので、「で、殿下、あのご婦人がお気に召したのでありますか」と聞くと案の定そうだった。今のところ彼は素直なので、好きなものは好きと言ってくれるのでかわいいのだが、ほしいと言われたとしても、どうすることもできそうにないので、「ご武運を」と言っておいた。私は昔からドラマはあまり好きではないのだが、時代劇はその割にはよく見ていた。時代劇もドラマの一つですよね。東野英治郎水戸黄門とか。里見幸太郎の助さんが好きだったな。印籠係が格さんなのが不服だった。幕末の熱血漢方医のお話とか。これは誰を好きだったのだろう。大河ドラマ徳川家康役所広司織田信長をやっていたが、信長が死ぬまでは間違いなく見ていたな。昔はよく見ていたが、いつ頃からか見なくなったんだけど、この若者多数参加の時代劇は、カッパしゃんの所為にして、毎週見るようになった。カッパしゃんの所為にする理由は、栗山さんが出ていなかったら見ないからであり、この時代劇自体には文句のほうが多い。やはりヅラの境目が気になる。左近がちょっとやせている。心配だ。強そうにみえない、強がってみえる。左近がカッコいいはずのシーンで、いまいち極まらない。しらじらしいコントのようにみえる。どうしたら極まるようになるのだろうか、彼女が心配だ。
カッパしゃんは今のところ男女問わず、お強い人が好きらしい。私もそうだった。カッパしゃんは、時代劇を見た後、レゴブロックで剣を作り、彼所有になった、エビスの手拭いで、彼の頭を鉢巻みたいにくくって、後頭部に長く手拭いの先を垂らして、どうやらかわいい左近になりきっているみたいだったが、ネクタイをくくって垂らしている、かわいい酔っぱらいのようでもあった。そして成長した揚句、いつか私のような、ただの酔っ払いになってしまうのだろうか、彼が。
彼は、私のことも好きで、おとうさんになりたい、とか言っているのだが、もしかして私のことを、お強い人と思っているのではなかろうか。私自身が強い人間であったことはただの一度もなく、むしろ、か弱ーい人間で、卑怯ですらある。彼が私のことを好きな理由が、私がお強い人であるという誤解であるとしたら、その誤解に気づいたとき、彼は私のことを、どう思うのだろう。父さんて、よわっ、と感じるということは、彼がいくらか強くなったということだろうから、喜ぶべきなんでしょうけどね、ただの酔っ払いになったのだとしても。