ちきゅうとなかよくうんどうかい

子供が通っている幼稚園で、運動会があった。事前に連休前に、保護者各位に配られたプリントには、親子で参加の走る競技が有りますので、(お願いですからこの休み中に)体を慣らしておいてください的な文面があったのだが、どうせ間に合わないと大した準備もせず、開き直って当日を迎えた。私のジンクスの中には、抜群の当り率を誇る、「張り切ると転ぶ」というのがあり、そこだけは用心して、とにかく日本で二番目くらいに滑らないという靴を履いて、転ばぬように張り切ってみることにした。
親子参加の走る競技というのは、リレーであった。子供から親へバトンが渡される、それを各家庭で繰り返し、ゴールを迎える、スタートはAさんの子供、ゴールはNさんの親といった感じみたいで、我が家は3番目のターンであった。
わが長男は、走るのがうまくなく、走るといえば最後なのだが、結構頑張ったのか、前走の家庭がうまくやったのか、最後ではなく、何人かと競り合うようにして、飛び込んできた。バトンを受けると、私の前にはよく肥えた、筋肉質の誰かのパパが出たところで、カーブいっぱいまでは、彼の背後の右後ろにぴったり着いていき、直線に入ると同時に抜いてやろうと思って、カーブに突入した。体は練習をしていないわりに軽く、調子はいいみたいだった。
カーブでは、幼稚園の運動場のかわいいカーブなので半径が10mくらいしかない、すごく久しぶりに、体を左に傾けて走った。前を走る誰かのパパは、細かいストライドで、私に抜かれるのを、待ってくれているようだった。小さなカーブを抜けるか抜けないかといったところで、さあそろそろ抜こうと、私はストライドを伸ばそうとした。なにも伸びなかったらしい、よくわからなかった。膝から下の力が抜けたようになり、ばちんッと見えざる力が私を地面に跪かせた。両手と左ひざの痛みと共に、まるで私はリレーの1走であって、今からクラウチングスタートで飛び出すような格好をしていた。もう何だかわからなかったが、ゴールも近いことだし、衆目の中、誰も見ていないことをいのりつつ、ゴールに向かって走り出した。次の子は、女の子で、私からバトンを受け取らなければならないことをまだ理解してないようで、ボーっとしていたが、私のコケ姿からのダッシュに見とれていたわけではないだろう。何だかよく知らない誰かのパパが、ハイっハイっと私に向かって叫んでるんだけど〜、これが変質者とか基地外なのかしらん、てらこわす〜とか思っていたに違いない、私からバトンを受け取ると、一目散にかけて行った。
傷の確認をすると、左膝と両掌と、右人差し指の皮がめくれ、出血こそ少ないものの、無色の液体がとめどなくあふれてきていた。その後、長男参加の器械体操があり、体液をこぼしながら動画等の撮影を行った。さすがにこのままでは、運転できないなと思ったので、誰か幼稚園の人に絆創膏をもらおうとしたら、受付にて、うわっ病院行った方がいいんじゃない、などと言われた程度の傷だったが(傷自慢しているみたいだ)絆創膏を貼ると気分が落ち着いた。膝の傷は貼りきれず、絆創膏からはみ出してた。この日の運動会で、何回かリレーが行われたが、10人くらいの誰かのパパが転倒していた。私はその中で一番地味にこけたけど、力積の関係で一番痛かったんじゃねえかと思った。
火事と喧嘩は江戸の花とかいう、ものすごく前向きに開き直った言葉があるが、それ風に言うと、泣く子と転倒は運動会の花というべきだ、私も地味だが花を添えたのだった。